子供達の動きや声でにぎやかだった夜の体育館はまた静けさを取り戻してきた。
私はバドミントンのハネがぎゅうぎゅうに詰まったケースを持ち、子供達を追いかけて出口の方へ向かう。
するとコーチが1人体育館の天井めがけてリフティングをしているのが目に入る。
パーン、パーン と一定のリズムでハネが打ち上がる。
コーチがラケットを振る動作は極めて小さい。
その動作とは吊り合わないほどにハネは天井すれすれまで飛んでいく。
天井付近で重力に気づいたハネは寸分の狂いなくコーチのラケットのところにまた戻る。
それの繰り返し。
コーチの年齢は60を超えている。
子供たちの声がだんだん遠くなっていく。
冷たい空気がぎゅうぎゅうに詰まった体育館の中をパーン、パーンと一定のリズムで音が走る。
体育館の中にいるのはもう私とコーチだけだ。
なんとなく見とれていると、
「昔は、天井まで届かなかったんだよなぁ」
とコーチが私に聞こえるか聞こえないかのボリュームで言った。
昔っていつの事を言ってるのだろう、私は心の中で思った。
家に向かう2月の夜道はまだまだ冷たく、地球の自転軸の傾きをうらむ。
家に着き玄関ドアを開けると子供達はラケットを放って階段を駆け上がる。
私も追いかけようとしたところ、隣の部屋から私の母親と父親の言い争う声が聞こえてきた。
60歳を超えた両親の言い争いは聞きたくない。
面倒だけど仲裁しようと内容を聞くと、
父親がバイクを買おうとして母親を必死に説得しているのだが、許可がおりないようだ。
やはり放っておく事にして私は階段をあがる。
親父がんばれ、と思いながら。
西尾からは以上です('◇')ゞ
